2023-2024年度岡山理科大学教育改革推進事業
学生参加型ゴビ砂漠フィールドワークの実践と本学恐竜学博物館教育への展開
概要
全学の学生が参加できるモンゴルゴビ砂漠における化石発掘調査の準成果教育プログラムを企画し、実践する。そして、その成果を恐竜学博物館における教育プログラムに生かし、特定学科に依らない全学的な学生の博物館利用と博物館教育プログラムの構築をめざす。背景と目的
モンゴルゴビ砂漠は世界有数の恐竜化石の産出地域として知られる。本学は、モンゴル科学アカデミーとの間に信頼関係を構築し、本学が採択された私立大学研究ブランディング事業などを通じて、共同研究を行うことにで、これまでに様々な研究成果を上げている。これらの研究の一環として行われてきた現地の化石の発掘調査には、研究プロジェクトにかかわる教員が指導する、主に生物地球学科の学生が参加しており、研究試料の採取の実践的な経験、研究組織の一員として一定の役割を担って参加する意義の自覚、そして国際交流の経験といった側面で、学生の学問的、また精神的な成長に大きく寄与をしてきた。現地における共同発掘調査はすでに10年近くに及び、発掘調査に関わる運営は、ほぼルーチン化されている。今後とも、学術的な意義に重点をおいた発掘調査は継続される予定だが、これとは別に、教育的意義に重点をおいた教育プログラムの実行が可能になっていると考える。今回、この教育的意義に重点をおいた教育調査を企画、運営し、その成果を博物館における学生の自主的な活動として発信していく準正課プログラムの構築を教育改革のテーマとして提案する。取り組みの課題解決への着眼点と解決方法
モンゴル科学アカデミー古生物学研究所(以下【IPMAS】と呼称)には、海外機関と協働した教育発掘の経験があり、それらの経験を基に本学と協働した教育発掘を行うことは可能である。本プログラムへ参加した学生は、その体験に基づいた展示や動画の作成、博物館の来館者対応を経験することで、本学独自の社会にリンクした実践教育の場を創出する。事業の新規性・独創性
古生物学を専門としない学生が、準正課教育プログラムとしてモンゴルゴビ砂漠における教育調査に参加し、博物館の活動に寄与していく点に新規性があり、独創性がある。自らの専門としない異分野へ関心を持つことの意味、そして自分の専門を生かして、いかに寄与ができるかを考える、またとない教育的な機会を提供できる。目標と実施計画
1年目の目標 最大5名の本学学生が参加する予備プログラムの企画と運営恐竜学博物館を窓口として、全学より最大5名の本学学生を選考し、夏季休業中に、最大10日間、モンゴルゴビ砂漠において教育プログラムとしての教育調査を実践する。帰国後、参加学生に報告書の作成を求め、さらに、展示、動画等の一般に公開できる作品を作成させる。これを利用した博物館案内を秋学期以降に行う。年度末に、この年の一連の活動を通して、本教育発掘プログラム、また博物館での活動について問題点を抽出し、予察報告を行う。
1年目の実施計画
【4月~6月】 Google MeetやZoom等を用いた遠隔会議による本学博物館とIPMASとの各種かつ複数回協議により、日程・活動地域・期間・予算について決定する。特に日本より持参する各種消耗品(テント類・発掘用品など)の準備をすすめる。本プロジェクトに参加する教員の推薦により、最大5名の参加者を決定する。決定後、ゴビ砂漠調査に関わる各種連絡と練習(テント張り、野外調査の心得指導など)を行う。
【7月~9月】 夏季休暇を利用し、モンゴルウランバートル市及びゴビ砂漠へ赴く。すでにゴビ砂漠調査に精通している教員2名以上が帯同する。ゴビ砂漠南東部及び東部の2か所を候補とし、移動日を含め最大10日を予定する。参加学生による現地記録は、リアルタイムに近い形で恐竜学博物館展示へ調査報告として組み込む。なお採取された化石標本に対する分類作業は、遠隔により本学教員と協働して実施する。帰国後、参加学生に報告書を作成させる。
【10月~11月】 教育発掘に参加した学生に展示、動画等の作成を依頼し、それらをもとに博物館展示の来館者案内を行う。定常的に博物館案内を行っている学生と協働することで、初期的な諸問題を解決し、1名2週間(最大数回)程度の案内業務を実施する。必要に応じて化石レプリカ作成などを学生主導で行う(石垣・高橋・實吉)。個別にインタビューを行い、本事業の教育効果を確認する。
【12月~3月】 初年度の実施内容を、古生物学・年代学研究センターの年度末報告書へまとめる。その際、本事業が学生に及ぼした影響と課題について明らかにする。これにより、次年度事業の問題点を抽出し、次年度における本事業実施の際に改善点として明確化する。
2年目の目標
1年目に明らかとなる問題点を精査し、これらを解決した上で、より大人数(10名)を対象とした教育発掘プログラムを実施する。SNSによる体験の発信も検討する。また参加学生による博物館案内を継続実施することで、1年目・2年目の参加学生へ対する本事業の教育効果を比較する。結果をOUSフォーラム、教育実践研究を通じて公表する。また必要に応じてFD活動報告会で報告し、教育機会の利用拠点として、全学的な博物館活用を模索する。
2年目の実施計画
【4月~6月】 Google MeetやZoom等を用いた遠隔会議による本学博物館とIPMASとの協議を通じて、前年度からの改善点を両者で共有する。日本より持参する追加消耗品の準備をすすめる。最大10名の参加学生を全学より決定する。決定後、ゴビ砂漠調査に関わる各種連絡と練習(テント張など)を再度行うが、初年度参加学生が準備作業に参加することで、更なる教育効果を創出する。
【7月~9月】 夏季休暇を利用し、モンゴルウランバートル市、ゴビ砂漠へ赴く。すでにゴビ砂漠調査に精通している教員2名以上が帯同する(石垣・林ほか)。教育発掘は、引き続きゴビ砂漠南東部及び東部の2か所を候補とし、移動日を含め最大10日を予定する。前年度と同様、リアルタイムに近い形で恐竜学博物館展示へ調査報告として組み込む。なお採取された化石標本に対する分類作業は、遠隔により本学教員と協働して実施する。
【10月~11月】 2年目の教育発掘に参加した学生を中心とした博物館案内を実践する。来館者へ対する博物館案内は、生物地球学科学生、前年度参加学生と協働して指導を行い、1名1週間~2週間(最大計10回)程度の案内業務を実施する。1年目・2年目の教育効果について、OUSフォーラムにて公表する。また2年間の参加学生を中心とした大学パンフへの協力を行い、本学広報へ貢献する。
【12月~3月】 初年度の実施内容との比較から、教育実践研究への投稿論文としてまとめる。その際、本事業が学生に及ぼした影響と、さらなる課題解決に必要な実践例について明らかにする。
成果の公表と期待される効果
前述のように、OUSフォーラムでの公表や、古生物年代学研究センター年度末報告書、教育実践研究などを通して、本事業の発信を行う。また、参加大学生へ対する新年度大学パンフへの協力、SNSによる発信などを利用して、本学独自の教育体制を新たな大学教育として大学ブランドの一部へ取り込み、恐竜学博物館が主導する本学独自教育との観点から、本学全体への教育貢献として本学ブランド力向上を支援する。2023年度実施報告
①実施状況本学教員3人の指導の下、工学部・教育学部および生物地球学部の5名の学生が、2023年8月19日から8月31日(13日間)に、モンゴル国で恐竜発掘体験プログラムに参加した。モンゴル側の研究者(2名)、運転手・コック(各1名)の協力を得て、総勢12名、車両3台で実施した。フィールドワークとして、ゴビ砂漠南東部のシャルツァフ・アムトガイ・バイシンツァフの三つの白亜紀化石産地を中心に6日間、恐竜化石密集層や恐竜足跡化石の発掘を行った。野外調査中はシャルツァフのフィールドセンター博物館に起居した。帰路においては、遊牧民の住居横に幕営し、現地生活に触れる機会を得たほか、モンゴル国内の二か所の博物館等で恐竜展示の見学、在モンゴル日本大使館への訪問とモンゴル事情に関する講話受講の機会を得た。帰国後、現場の写真やビデオ、発掘道具、キャンプのテントなどの展示を作成し、倉敷市自然史博物館の普及イベント(博物館まつり。11月3・4・5日。来場者約2000人)で試験的に教育活動を実施した。学生が観客に現地体験を生の声として説明することは大変好評であった。現在、このイベントの際の反省を生かして展示を改善して再度製作中であり、2月23・24日、及び3月30日に本学の恐竜学博物館で教育普及活動を実施する予定である
②目標に対する結果とその評価
現地において:環境が大きく違う地での生活は学生にとってはハードルが高く、熱中症や軽い体調不良等の問題はあったが、最終的に無事にプログラムを最後まで行うことができた。しかし全体にハードであり、余裕を持つなどの改善が必要である。
帰国後:博物館での教育普及活動では、実際に発掘に参加した学生による具体的で熱意ある解説が、来場者にとって非常に印象的であったことが、会話の持続時間や、観客からの質問の多さからうかがい知ることができた。また教員と比べて、学生が語ることで質問がしやすい環境ができ、調査や研究を、観客に身近に感じさせる効果をもたらした。
本年度設定された目標は、5名の本学学生を対象に「教育発掘予備プログラム」の企画及び運営を成功させることであり、この目標は無事に達成できた
③特に教育効果の改善が認められた内容
本プログラムは、限定された研究目的達成のためのフィールドワークではない。フィールドワークと国際交流およびそれを博物館教育活動で社会還元する一連の体験を通じて、学生の成長を促すことが目標である。この意味では、すべての学生が体験を通じて視野の拡大と、社会への積極的な関与の意義を理解する貴重な機会となり、大きく成長したと言えるだろう。それは会話の端々や人との接し方、作業の時の動き方、他人への説明の仕方などに現れた変化にみることができた。学生からのヒアリングによれば、特に、大自然の中での生活、モンゴルの人々との交流といったことが、特に印象深かったことが伺えた。参加学生へのアンケートによれば、学生の満足度は非常に高く、自身の成長を強く実感していることが明らかとなった。
④計画通り教育効果の改善が認められず課題として残った内容
帰国後に学生たちが参加体験を語る場を作る事については、教員側からの様々な働きかけと、教育プログラムの計画、枠組の構築が必要であった。理想的には教育活動プログラムの企画段階から、学生の積極性を引き出すことが課題である。さらに準正課教育プログラムとするためには危機管理対策や指導体制など整備しなければならない課題がある。また、今年度はモンゴル側から学生の参加が得られなかった。本来の目的の一つである学生同士の国際交流を実現するためにはモンゴル側との調整がさらに必要である。