センターについて

2023-2024年度岡山理科大学プロジェクト研究推進事業
 恐竜研究を中心とした新たな本学研究シーズの確立

①本研究の背景と着想に至った経緯

 後期白亜紀(約1億年前~6600万年前)は、恐竜類の拡散と絶滅が起ったと同時に、現生食物網へとつながる陸上脊椎動物相の多様化もすすんだと考えられている。しかし、これらの仮設を支える知見は、当時の沿岸部およびその付近の地層や化石、また欧米を中心とする地理的に偏った記録に基づいており、中央から東アジアの動物相や古環境のカギとなる記録は限られる。本研究グループは、研究教育協定を結ぶモンゴル科学アカデミー古生物学研究所(以下「IPMAS」と呼称)との国際共同研究に基づいて、私立大学研究ブランディング事業(2016年度~2019年度)、プロジェクト研究推進事業(2020年度~2021年度)、学術振興会二国間交流事業(2021年度~2022年度)などを継続実施し、モンゴルゴビ砂漠にて脊椎動物化石の発掘と採取、年代学的・地質学的検討を通して、当時の動物相解明と年代解明や生息環境復元などを議論し、本学研究ブランドの基礎づくりに努めてきた。

②本研究の目的と研究期間内の目標

本申請研究では、これまでの研究成果に立脚し、かつ本学既存の研究シーズとの連携や融合を通して、以下の研究により、新たな研究ブランドの確立を図る。
(1)脊椎動物化石の分類学的研究と年代測定
 これまでの発掘調査を通して得られた、新種哺乳類化石を含む、多様な脊椎動物化石(恐竜類・哺乳類・ワニ類・トカゲ類・両生類など)(図2)について、これらの分類学的帰属の検討を進める。これには、後述するIPMASの蓄積・保管してきた多様な系統の比較標本を比較に活用する。特に、この時代に生息していた哺乳類を記載することは、新生代以降における哺乳類の進化を議論する上で極めて重要である。一方、これらを産出した地層の一部は、本学研究成果を基に絶対年代を得ている(Kurumada et al., 2020, Terra Nova; Tanabe et al., submitted)。地層記載を終了し(e.g., Saneyoshi et al., 2021)、かつ広域かつ局所的に分布する複数層に対して、地質年代を決定し、動物相の進化や環境変遷との関連を議論する。すでに一部地域については、年代測定用試料(炭酸塩古土壌・古地磁気測定用試料・恐竜の歯化石)の採取と輸送を完了している。これらの試料に対し本学設置の各種測定機器を用いた先駆的な測定と、本申請にて得られる岩石試料の年代測定を継続実施する。加えて、予察的であるが、上部白亜系は基盤の古生代付加体岩体より砕屑物を供給されたことが明らかになりつつある。これらの付加体岩体に対し、地質調査及び年代推定を目的とした新たな調査を行い、上部白亜系堆積時における供給源の解明などに取り組み、年代の推定に応用する。
(2)新たな研究シーズを取り入れた古生物学研究
 本研究では、特に工学的な学内シーズとの融合により、新たな古生物学的研究の展開を目指す。具体的には、絶滅動物の生態復元を目的に、骨の構造や解剖学的特徴、足跡化石に基づく歩行形態、それらを基礎とした応用工学的研究を実施し、歩行ロボット技術の基礎開発につなげる。また、脊椎動物化石を効率的に採取することを目的に、新たに、粉体工学を利用した化石採取法の開発を検討する。これらを通して、世界的にも例を見ない工学と古生物学の融合を目指す。
(3)古生物学・年代学研究センターと恐竜学博物館を中心とした研究ブランドの強化  本申請研究の経過や研究成果は恐竜学博物館を通じて学外に直接広報される。本申請研究によって、これまで本学で実施されてきた地球科学系のプロジェクトにより蓄積され、恐竜学の進展にともない古生物学・年代学研究センターへと継承された研究の蓄積を、本学独自の研究ブランドを確立し、発展させることができる。また、このために本学の研究シーズを動員して、全学的な取り組みとしての本学のブランドを形成することにより、それを社会的に認知してもらうことができる。本申請研究は、IPMASとの極めて強固な研究体制を構築してきた背景に基づいており、本学の国際共同研究強化に大きく寄与することに疑いはない。学内の各学部・機構に属する研究者が、本センターと博物館に集い、議論し、未知の研究シーズを育むことが可能となり、新たな恐竜学の進展と確立へ貢献できるだろう。

③本研究の特色及び独創性

 本学はIPMASとの協定に基づき、モンゴル産化石の国外への化石標本貸し出し許可を得られる、世界的にも限られた研究教育機関の一つである。また、以下に示す特色及び独自性を有する。
  • 対象となる化石標本は、世界的にも例のない年代や分類群を含む。更なる化石標本の追加と、2023年1月にIPMASとの間でその活用について合意した、林原自然科学博物館の標本群(IPMAS保管)との比較解剖学的検討を通し、世界的にも例のない化石標本コレクションを利用できる。この内容は、本学恐竜博物館の展示へも応用可能である。さらに年代学的研究から、産出化石の正確な年代を明らかにできるだけでなく、本学独自の新たな年代学的研究手法の開発も可能となる。
  • 工学と古生物学の融合を通じて、新たな研究シーズを発掘できるだけでなく、博物館展示へも転用し、更なる独自性を保持した大学博物館展示と研究シーズの発掘を展開する。
  • 本学研究ブランドの強化、国際共同研究の推進、学内共同研究体制の構築、等を通じて、本学の恐竜学を学術的に強化するだけでなく、教育・社会貢献・広報といった広範な大学業務へ貢献できる。

  • ④本研究を複数の研究者で実施することによる協働効果及び学内への波及効果

     本申請研究の参加教員は、多様な専門性(地質学・古生物学・鉱物学・地質年代学・古地磁気層序学・ロボット工学・粉体工学)を有しており、前述した3つの研究目的を達成できれば、学術的な成果だけでなく、センターや博物館を中心とした、有機的な連携体制を構築できる。このように広範な専門分野から構成される研究者集団は国内外に存在せず、ユニークでオンリーワンな理大研究ブランドの更なる成長にも寄与する。さらに、研究室に所属する学生(卒論生・修論生・博士学生)も参加することで、同一の学問領域に留まらない、多様な領域を統合する貴重な学術体験と人間育成といった本学独自の教育体制を構築できる。IPMASとの連携体制の更なる強化や、将来的な大型申請へむけた研究者集団の構築へ資する。

    ⑤研究課題区分「連携協定を締結している大学等との共同研究」を選択した理由

     本申請研究には、モンゴルゴビ砂漠に分布する地層と、そこから産出する脊椎動物化石を用いる。そのため、各種試料の採取には、モンゴル政府機関であるIPMASとの共同研究及びモンゴル政府からの調査許可を必要とする。IPMASとは、2013年に締結した研究教育協定をはじめとした各種契約を繰り返し締結し、両者の協力関係を相互発展させてきた。このような背景から、本申請研究の外部メンバーとは、これまでの共同調査から強固な信頼関係を築いており、本申請研究に関わるモンゴル国内の各種手続きを円滑に進めることができる。このような研究組織は国内でも極めて稀であり、極めてユニークな研究を展開することができる。

    2023年度夏季現地調査の成果(2023年10月中間報告)

     モンゴル南部に分布するゴビ砂漠には、広く上部白亜系の地層が分布する。岡山理科大学とモンゴル科学アカデミー古生物学研究所の共同調査チームは、2015年度より化石踏査と発掘、地質調査、年代測定用試料の採取を行い、行った研究の成果を公表してきた。
     2023年度には、8月上旬から中旬にかけての日程で、本学教員5名、本学学生3名、国内研究機関研究員1名、米国大学所属研究員1名、モンゴルアカデミー所属員5名が調査に参加した。東ゴビに位置する化石産地Bayn Shireを主な調査対象とし、化石発掘と地質調査、年代測定用試料の採取を実施した。さらに、Javklant地域にて今後の調査方針を決定するための予察調査、Urlub Khudagにて国内研究機関との共同調査を目的とした年代測定用試料の採取をそれぞれ実施した。
     Bayn Shireでは、これまで集中的に化石発掘を実施した層準を中心に、化石産地全体に分布する地層の特徴から、化石産出層の層準決定を行い、かつ化石産地全体の古環境解析を行った。本学にて開発した手法による年代測定を行うための試料を採取した。採取した試料を、ウランバートルの研究所へ持ち帰り、整理と梱包作業を行い、日本への輸送準備を整えた。試料が本学に到着し次第、分析を実施予定である。
     さらに、ゴビ砂漠に分布する白亜系の基盤を構成する古生代の付加体地質の調査を開始した。これらは、白亜系の形成に関わる砕屑物供給源であるだけでなく、ユーラシア大陸形成に関わる重要な知見を得られる研究対象として期待される。現地踏査による層序確認と、必要な岩石試料の採取等の作業を実施した。分析に必要な試料を持ち帰り、日本への輸送準備を整えた。


    Bayn Shireの全景。主に河川堆積物より構成される。岩相層序を調べ、化石産出層の層序の同定を行った。また、当時の古環境の推定を行うとともに、年代測定用試料の採取を行った。


    Bayn Shireの中で、特徴的な化石の産出を確認した地点。地層を掘り込み、さらなる化石の有無を確認した。


    Javklantでの化石発掘作業。化石が広く認められ、よい産出を示した。写真の奥の地層を観察したところ、古環境推定に有用な化石や年代測定等の対象になりえる露頭の存在も確認できた。


    Urlub Khudagで見られる河川堆積物。この場所において、複数の重要な化石が国内他機関によって発掘されている。今回、共同研究としてこの層序の年代決定を行うために岩石試料の採取を行った。